2026/8/26

記憶の場所が見つからない

 

ひと月ほど前、何かの話題から吾妻渓谷の話になりました。

その中で、私と妻、そして今は亡きそれぞれの母の四人で吾妻渓谷を歩いたことがあったよね、

という話になりました。

渓谷の風が心地よく、川の音が静かに響いていた、秋の穏やかな一日でした。

途中、小さな木造の素朴な駅に立ち寄って休憩したことを思い出しました。

ところが、その駅の名前をどうしても思い出せません。

Googleマップで探すことにしました。

しかし、どうしても見つかりません。

駅舎だけでなく、鉄橋もトンネルも、記憶にある風景がどこにもないのです。

 

「新しくなったのだろうか」と思いながら調べていくうちに、理由がわかりました。

あの日、私たちが休憩した駅は「旧・川原湯温泉駅」。

そして、その「旧・川原湯温泉駅」は、

八ッ場ダムの建設に伴い、旧吾妻線のルートごと湖底に沈んでいたのです。

風景が変わったのではなく、

風景そのものが静かに消えていたのです。

その事実を知った瞬間、

胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚が広がりました。

 

八ッ場ダムの建設自体はもちろん知っていましたし、

一時中断のニュースも覚えていました。

ただ、自分の知っている場所がダムの底に沈むという事実は、

なんとも言えず悲しいものでした。

私でさえそう思うのですから、

住民にとっての思いは想像に堪えません。

 

町がダムに沈むなんて、遠い昔の話だと思っていました。

まさか、自分が歩いた場所が近年になって

静かに湖底へ沈んでいたとは思いませんでした。

 

 

そこで、お盆休みに八ッ場ダムを訪れました。

湖面を眺めていると、

昔歩いた渓谷の風景が静かに思い浮かんできます。

時間が経ち、

景色が変わっても、

思い出の場所が湖の下に沈んでも、

あの日の記憶は変わらず残っています。

 

  この水面の下に、かつての風景が沈んでいます。